少し前に書いたことだが、昨年夏のこと、ある年配のご婦人が名古屋ボストン美術館に初めてこられ、大変満足して帰られた。アメリカに旅行され、ボストン美術館をすでにご覧になられていたが、名古屋の方がずっと見やすかったと言うのである。この"見やすかった"という感想を持たれた理由のひとつに、美術館の規模の大きさもかかわっていよう。

 日本ボストン会の皆さんは、ボストン美術館やさらに規模の上回るニューヨークのメトロポリタン美術館をご覧になったであろうし、おそらくヨーロッパ各地の名高い大美術館に行かれた方も多いに違いない。美術館の建物の大きさと展示されている美術品のあまりの量の多さに、しばし唖然としたという経験をお持ちの方も少なくないのではなかろうか。

 私自身は専門家の端くれでもあるが、訪れようとする美術館の性格なり特徴を前もって頭には入れている。それでも、実際に当の美術館を目の当たりして唖然としたことはしばしばである。気持ちを静めて、まずは持参の案内書なり美術館の入口辺にある館内マップなりによって、自分の一番見たい作品なりのありかを確認する。次いで目的場所へと急ぐ。その間に幾つもの展示室を通るわけだが、時間の限られている時は、途中に心惹かれるものがあっても、足を止めずに横目で流し見るほかない。宝の山に踏み込みながら、殆どは持ち帰れないというような心境にもなるのは、そんな時である。

 ルーブル美術館などで、ガイドに引率された団体客がミロのヴィナスを見た後で、周辺の彫刻には目もくれず、今度は階上のモナリザへと急いで移動するのによくでくわすが、実のところ私の美術館の見方もそうした観光客と大差ないのかも知れない。

 それはさておき、名古屋ボストン美術館が見やすいというのは、単に小規模の美術館だからというだけではない筈である。次回にその点に触れて見たい。


浅野 徹 (あさの とおる)
 東京教育大学教育学部芸術学科卒。東京国立近代美術館美術課長、愛知県総務部文化振興局美術専門監、愛知芸術文化センター愛知県美術館長などを経て、現在名古屋ボストン美術館館長、名古屋芸術大学教授。中村彝画集(日動出版部)など著書多数。

『名古屋ボストン美術館の見やすさ(続)』 >>

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2011年 5月 15日 更新

名古屋ボストン美術館の見やすさ (2001年)

                                 名古屋ボストン美術館長 浅野 徹