世界遺産・国立西洋美術館建築ツアーと
東京都美術館で「ボストン美術館至宝展」鑑賞    三好 彰

 まだ夏の日差しが残る927日の1030分に、上野の国立西洋美術館本館の地獄の門の前で待ち合わせた。前日や当日に不測のことがあって参加できなくなった方があったのは残念だった。参加者は次の15名であった(敬称略、順不同)。

  吉野耕一、吉野静子、山口靜一、土居嘉子、近藤百合子、関直彦、棚橋征一、小野田勝洋、小野田富子  森裕子、柴柳美佐、酒井一郎、酒井典子、三好 彰、三好 美智子 

 最初に、同美術館でギャラリー・トークのボランティアをしている三好美智子が同館の建築ツアーを先導した。その後、近在の東京都美術館で特別展「ボストン美術館至宝展」を目ざした。

     国立西洋美術館本館建築ツアー(三好美智子記)

  昨年7月に世界文化遺産に登録された国立西洋美術館の本館の建築ツアーの案内役を務めた。
まず前庭から建物全体を見て目に入ってくるのがピロティ pilotis:柱で建物を支えることによりできる空間である。風が通り雨や強い日差しを避けることができる。

 ファサード façade:玉石が埋め込まれた建物正面の外壁は建物の荷重を支えるものではなく、取り外し可能なパネルとして作られている。
  屋上庭園:鉄筋コンクリートを使うことで水平の屋根が生まれ屋上に庭園を造ることができた。
 
 館内に入り19世紀ホールと呼ばれる本館の中心に立ち、まずトップライト top-light。本館の設計者であるル・コルビュジエ(フランス人)は自然光をいかに建築物の中に多く取り入れるかを生涯の課題としたが、このトップライトはその一例である。やわらかい自然光と人工照明をバランスよく使った照明は本館のあらゆるところで見ることができる。 
 ル・コルビュジエは黄金分割(ほぼ11618)が安定した美観を与えるとし、人体の寸法をベースとしてモデュロールの概念を提唱した。すなわち自分の身長 183cm を横とし、立って手を挙げた時の指先までの高さがそ1.1618倍の296cmなので、それを縦とした。このモヂュロールの考え方がファザードの四角いブロック、バルコニーの高さ、高低の天井等の随所に活かされている。
 
 さらに柱によって建物を支えることによって可能になった自由な間取り横長の窓を確認した。
 上記で太字で示したのが西洋美術館の設計者ル・コルビュジエが提唱した近代建築の5つの要点である。改めて書き上げると「ピロティ、ファサード、屋上庭園、自由な間取り、横長の窓」である。
 このように50分にわたり、ル・コルビュジエが構想していた無限成長美術館(コレクションが増えるにしたがって建物の外側に展示室を追加していくことができる)を会員皆さまと楽しむことができた。 

日本ボストン会 The Boston Association of Japan
 昼食(三好彰記)
 昼食は韻松亭で摂った。ボストン会では20155月以来の2度目である。前回を反省してイス席にした。
 上述した「ボストン美術館の至宝展で」の目玉展示である英一蝶の「涅槃図」について山口先生から資料に基づいて説明していただいた。
 食事は彩り豊かな花籠御前であった。話題の豊富な方揃いであり、絶えること無く楽しい語らいが続いた。思わぬ不都合なこともあったが、それを補ってくれた韻松亭であった。
 なお食後に「ボストン美術館至宝展」に回った方は、混雑が解けていて問題無く入場できた由である。それは見学順、時間取りの工夫が今後の課題であることを教えてくれるものであった。種々の問題を感じた、参加者各位のご寛容に改めて感謝いたします。   
                                                   (完)

     東京美術館で「ボストン美術館の至宝展」鑑賞(三好彰記)

 西洋美術館から三々五々に東京都美術館に向った。地下へのエレベータを降りると館内の窓際がいつもと違う風景だった。「ボストン美術館至宝展」の入場待つ人々の長い行列のためであった。最後尾に係官が居て「30分待ち」の看板を上げていた。これでは昼食会場の予約時間を考えると見学があわただしくなるから入らないという人が次々に出た。そこで是非ともという数名を除いて館内で一服することになった。筆者も入るのを諦めた。
 実は、筆者は山口先生に声をかけていただいて事前に見ていたので、その時の印象を記すことにする。
今回の展示は次のように分類されていた。
    ハーバード大学と共同で発掘した古代エジプトの出土品
    北宋・南宋絵画の名品から成る中国美術
    ビゲローやフェノロサ等が中心となって収集した日本美術
    ボストンの資産家が寄贈した19世紀フランス絵画とアメリカの絵画
    現代の版画・写真、美術
図録のページ数で言うと中国美術と日本美術で39%、フランス絵画とアメリカ絵画で37%であり、展示の中心がこれらにあることが分かる。
 中でも圧巻なのは図録で複数ページに拡大されている次の作品であった。
    中国美術:「九頭龍図」(南宋)
    日本美術:英一蝶の「月次風俗屏風」と「涅槃図」、
           曽我蕭白の「風仙図屏風」、
           与謝野蕪村の「柳包渡水・丘辺行楽図屏風」
    フランス絵画:ヴァン・ゴッホの「郵便配達人ジョセフ・ルーラン」と
            「子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人」
このなかで「涅槃図」とゴッホの両作品は近年大がかりな修復がなされてのお披露目
の意味合いも有ったようだ。
 日本のコーナーの作品はボストン美術館でも同時に展示されることはあまりないので
はないだろうか。圧巻であった。

 大戦が終わって、たった14年後の厳しい時代にも関わらず文化に正面から向き合った人々の熱意や実際に建築にたずさわった人々の努力を話して終りにした。
 普段は絵画や彫刻を主にご案内し、建築はにわか勉強だが皆様、熱心に聞いていただき、また質問をいただいて言葉足らずだったことを補っていただきとてもありがたかった。
 なおル・コルビュジエが設計し、世界の7か国にある17の建築物が一括して世界遺産になった。国立西洋美術館は日本国内にある唯一のル・コルビュジエの作品であることを付記しておく。

2017年 10月 28日更新

日本ボストン会 The Boston Association of Japan